セクハラ防止動画でなぜ笑いが起きる?~農業関連の団体さん研修~
近代的とはいえない農業団体さんの社風
今回は農業関連団体さんの再雇用職員研修を担当しました。
・自発的に動こうとしない職員がいる
・セクハラの声も一部で上がっている
・当団体の再雇用職員は今では高い割合を占めるに至っているが現状に課題を感じる
ということで、再雇用職員の皆さんが役職者だった以前の立場から発想を切り替えて、もっと業務に前向きになってもらい、組織に貢献できる職員になってほしい、というご要望を受けての実施でした。
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農業関連団体さんの研修は何度か担当したことがありますが、一般企業と比べると旧態依然としている組織が多いように思います。
私は以前、その団体さんの別な県の組織で研修の講師を務めたことがあるのですが、お互いの認識違いで私が違う会場に行ってしまい、そこから30km離れた正しい会場に大慌てで爆速車移動した経験があります。
元々、会場には早めの到着を心がけているので、そのときも間違いを知ってから移動したわりには、最終的に10分程度の遅刻で済んだのですが、びっくりしたのはそのあとで、「申し訳ありませんでした!!」と息せき切って研修会場に入ろうとしたら、「すみません、まずは応接室で(仮称)理事長(一番えらい人)にご挨拶を」って係の人が言うんですよ。
(えっ?数十名の参加者がすでに10分以上待たされているのに「ごあいさつ」ですかっ??)と思いつつ、重厚な応接セットのある部屋に入ると、この理事長の話が長い、長い・・・
私は会議室で待たされている数十名の参加者のことを思うと気が気ではありませんでしたが、理事長との歓談(?)が終わってようやく会議室に入り準備を始めても、参加者がストレスや苛立ちを感じている様子がまったくなかったので、そのときは「この団体さんは理事長ファーストなんかいっ??」ってつい思ってしまいました。
ひそかに気になった組織風土
さて今回はその団体さんの県内組織の研修でしたが、久しぶりに講師席に立ってみると(過去にも担当実績あり)「ああ・・」と思うことが何度もあって、今日は自分の備忘録としてそれをここにまとめたいと思います。
理事長が研修開始と同時に席を立つ
研修「あるある」ですが、お役所やそれに準じる公的な色合いの強い機関では、その部門の最高責任者の方が必ずご挨拶(名刺交換)に見えますが、「所用がある」等の理由で(そこは阿吽の呼吸的な理由)開会の挨拶を終えたらすぐ退席されたり、そもそも開会のご挨拶は部下が担当してご本人は会場に姿を見せないことが多いです。
または、始まってから少しの間は前にあつらえた専用の席でお話を聞いた後、内容的に区切りのいいところで私にアイコンタクトで一礼してから退席されることが多いです。
ですが、今回の理事長さんは、私が話し始めたその瞬間に司会者と同時に席を立たれたので、なんとなく嫌な感じ。倫理法人会ではルールとして定められていることなので、特に何も思わないのですが、今回はなぜそう感じたのだろう?
実は事前のご挨拶と名刺交換のときに少しお話をして今回の研修への思いをお聞きし、その言葉に熱意を感じていたので「え?このタイミングでいなくなるの?」と思ってしまった自分のこころの問題かもしれませんが、まあ、「先生」と呼ばれる立場であっても、実際は一業者ですからね。
ただ、もしこれが男性講師ならどうだったんでしょう。私は理事長よりも年上だと思いますが、私と同世代の男性講師が来たときは同じ行動をするのか?なんか私は違う気もするんですよね。そういうことに今頃気が付いたりします。
研修への抱負は「ありません」
受け身の研修にならないように、私は参加者の方を指名して質問をしたりご意見やご感想を伺うことにしています。今回も開始して間もなく、事前にいただいた名簿からおひとりを指名して「自己紹介と本日の抱負をお願いします」とお願いしたところ、自己紹介はしてくださったものの、本日の抱負のほうは、「え・・・」と少し困惑されたあとすぐ、言い切るような口調で「抱負は・・・えーと、ありません!」って・・・
そういうお答えをされるのはZ世代の方がほとんどですが、60代の方から聞いたのは初めてだったので、思わず「はー?」と思いました。
こういった双方向の参加型研修に慣れていないのだと思いますし、上から「出ろ」と言われてしょうがなく参加しているのもわかります。そしてたぶん周囲の「笑い」を取りたいお気持ちもあったんだと思いますが、私はこの件でも少しだけ軽視されているような気がしたんですよね。
ただ、真偽はともかく、私は自分が講師を務める研修で、違和感を覚えたりその場にふさわしくないと感じられる発言があったときには、決してスルーはせず、必ず何かコメントすることにしています。このときも「お忙しい業務のなか、わざわざ時間を割いて遠方から参加されているのでそれはもったいないですね。ぜひ何か持ち帰ってくださいね」と笑顔で返したんだったな
そのときは本当に全く気付かなかったのですが、今これを書いていてふと「これが私と同じ年齢(60代)の男性講師だったら同じ答えだったろうか?」と思い始めました。女性を軽く見たり、男女で態度が違う風潮はまさにセクハラの温床になります。これらのことから(再雇用職員に対して)「セクハラの訴えもある」というのは、あり得るな~と思いました。
と言ってもそのセクハラは「彼氏いるの」「子供はまだなの?」等々、個人のプライバシーに踏み込むようなものらしいので、オジサンたちにすれば本当は悪気はないんだと思いますけどね。
「〇〇しか」という表現を多用する
講師と受け答えすることに皆さんが慣れてきた頃、あることに気づきました。「こうする”しか”ない」「こうすること”しか”できない」など、発言者の言葉に”しか”という表現が多いんです。
まっさきに感じたのは、再雇用者の皆さんが様々な理由で自分の立場を慮り、かつては部下だった現在の上司に節度あるコミュニケーションを心がけた結果として、不自由さを感じたり「以前ならこういう言い方もできたのに・・」と残念な思いを抱ている表れではないかと思ったことです。
そう思った自分の印象はその場ですぐ参加者にフィードバックしましたが、その傍らで「固定的な思考の皆さんなんだな」と感じたことは否めません。
比較してはいけないのですが、やっぱり民間の企業さんよりは「後ろ向きで頭が固い人たち」という感覚を抱きました。
研修用のセクハラ動画でなぜ笑う?
今回の研修はセクハラ防止が二本柱のひとつだったので、ある事例集の教育ビデオを参加者に見てもらいました。教育用のビデオはいくつか手持ちがあるのですが、事前のお話を伺う限り、最新のものよりひと世代前のもののほうが今回の皆さんにはふさわしいのでは?と考えて構成しましたが、この予想はまさにドンピシャでしたね。
だって、研修開始前の皆さんの雰囲気を見ていても、この動画で描かれている言動(些細なもの)なんか絶対にやりそうですもん(笑)要は気立てはいいけど それほど上品ではない、よくいる昭和の庶民派オジサンたちなんですよ。
動画では好ましくない一例として最初のほうにこんな会話が出てきます。(同じ課の男性一人、女性一人が遅くまで残業してPCに向かっているオフィスに外出先から課長が帰ってくる)
課長:あれ?Hさんまだ残ってたの?早く帰って旦那にご飯作ってやらなきゃ。
H課員:大丈夫です。今日は残業するって言ってありますから。
課長:旦那がかわいそうだねぇ。あ、ところで君のところ子供まだだね。なんなら作り方を教えてやろうか。
「早く帰って旦那にご飯作ってやらなきゃ」は年代的にギリギリまだ容認できるとしても(許容ではなく容認)、「旦那がかわいそうだねぇ」には(昔の感覚で夫婦の問題に立ち入るな!こちとらそれでうまくやってんだよ、ふざけんな)と、カチンと来ますし、さらに私の感覚では「なんなら作り方を教えてやろうか」は完全にアウトですね。まさに「何言ってんの?このエロオヤジ!」です。「この時代にそういうジョークしか言えないって、本当にお馬鹿なんじゃないの?」ですよ。
この動画は段々ネタが古くなってきたので最近はほとんど使っていなかったのですが、今回はたぶんこれがいいだろうと思って研修時に再生してみたところ結果的に大正解だったと思います。
でね、意外だったのはさきほどのシーンで参加者が笑ったんですよ。その後も50代後半~60代男性がほとんどの会場で、クスクスと笑いが漏れるシーン(事例)が何度もありました。
でもですね、過去に他の研修でもこの動画を何度も私用していますが、今まで笑いが起こるということは一度もありませんでした。(私も初めて見たときに「あー、あるある」とは思いましたが、笑いたい気持ちにはなりませんでした。「いるんだよね、こういうヤツ」とは思ったけど)
この「笑い」はどう分析すればいいんでしょう。身近によくある事例なので思わず吹き出しちゃったんでしょうかね。それがもし本当なら、今まで表情を崩すことなく無言で見てくださった他の企業さんにとっては「時代遅れの事例」として冷ややかに受け止められたのかもしれませんし、逆に今回の団体さんにとっては「現在進行形のリアリティのある素材」として映ったのかもしれません。
パワハラの6類型では、他人のプライベートに執拗に踏み入る行為は「個の侵害」としてNG指定されていますので、その意味で恋愛や結婚や出産や夫婦関係に度を超えて立ち入る行為は、セクハラでもありパワハラでもあります。
ですけど、研修の様子から察するに、誰かは絶対にやってそうだよ、このオジサンたちは。しかも周りが止めるのではなく、むしろ同調して悪乗りしてきそうですww
ただその感覚は、同世代の私にはある程度理解できても(許容ではなく理解)、10代~20代の新卒者には受け入れがたいものがあるので、皆さん、もっと言動に注意してよね。
最後に指名した方の以下の感想が印象的でした。
自分らが若いころによいと思ってやってきたことが、今は全部真逆であることがわかりました。今後どうすべきた改めて考えてみたい。