02本を出したいから30万円出してと言ったら夫が超不機嫌に
こういう話はできるだけ即決した方がいいと思って、すぐに隣の部屋に寝そべってTVを見ていたポチ(夫)のところに正座して、「実は頼みがあるんだけど」
「私、もしかしたら、本を出せるかもしれないの。打ち合わせで一度会って名刺交換をしたことがある、ツルハシ権三郎先生(仮名)から、本を出しませんか?というメッセージが今届いたの。でもそのためには30万要るんだって。いま、メッセージを転送するから見てくれる?」
「え?どういう意味?どういうこと?さっぱりわかんない」
「まず、メッセージをLINEに転送するから見てくれない?」
私は自分の仕事部屋に戻って、夫にLINEを送った。少し遅れて既読の文字が付いた。
頃合いを見て、隣の部屋に行き「見た?」と尋ねると、うわぁ、超やべぇ、メチャメチャ不機嫌になって、今にもキレてその辺のものをつかんで、ぶん投げそうなイキオイだ。夫は若い頃から、突然キレて物を投げたりその辺のものを力任せに蹴飛ばしたりする性質なので、「来た・・・」と思いながら、それでも話を進める。
「私、この話に乗ってみたいの」
「・・・」(←怖い)
「こういう話は滅多にあるもんじゃないし」
「・・・」(←怖い)
「なので・・・」
「あのさ、話がさっぱり見えないんだけど、だいたい、俺はこの権三郎というのはどこのどいつか知らないし・・・」
「あ、よしのりクンの紹介。この前、Facebookで集まったときの写真、アップしたでしょ?」
「また、よしのりか。なんっか、おれ、大嫌いなんだよ、あいつ。いつもチャラチャラしていて、なんか変な募金活動やっていたかと思うと、それもまたいつの間にかなくなっていて、確かに本業は別にちゃんとあるのわかるけど、Facebookを見ていても、全然いいと思わないし、それに、本を出すって、それでなんかいいことあんの?おれさ、そういうの全然わかんないからさ、本を出していったい何がいいのか、まったくわかんないし、それでいったいどんなメリットがあるんだか。結局、また、忙しくなって、家の中がメチャメチャになって、もうおれ、そういうの、嫌なんだよね。」
げげげ。本を出すメリットがまったくわかんないっって・・・講師やコンサルをやっている人なら、誰だってなんとなく、出せたらいいのになぐらいは、ほんの少し思ったりもしているものだが、そういうことは、まったくわかんないのか、この人は・・・
「だいたいさ、よしのりさんの周りの人達も、おれは嫌いだ。みんな、チャラチャラしていて、浮ついていて、派手で、出たがりで、最近、本を出した花子さんだって、本を書いたら、段々変な人になってきて、おれは、そういうの、大っ嫌いなんだよ!だいたい、アフィリエイトはどうしたんだ、アフィリエイトは?将来はずっと家にいられるように、老後に向けてアフィリエイトで稼げる人になりたいって、言ってただろ?俺もそれが一番いいし、あんたはその才能があると思ったから、お金をためて、東京でも大阪でも勉強に行ってそれでお金が稼げる人になるなら、そのためにお金を頑張って貯めようと思っていたのに、今度は本ですか?アフィリエイトやりたいっていていたのは、それは、何だったんですか?」
はー、確かに本気でそう思っていたけど、時間がかかって確実性がないアフィリエイトより、今、目の前にある出版のほうがずっと現実的じゃん。要するにポチは、奥さんがニコニコと家にいて、在宅で収入が得られて、穏やかに平和に暮らしたいと痛切に思っているのが伝わって来て、今まで確かに常にバタバタしてちっとも安穏な家族生活じゃなかったから、ちょっと心が痛んだけれど、この際、そんな世界観は後回しだ。まず、お金。
「で、ここに必要経費が30万って書いてあるでしょ。これ、今なら出せるよね。将来的にアフィリエイトのコンサル(100万円!)を受けてみたいものだって言ったら、いいね、貯めよう、って言ってくれたんで、本も似たようなものだから、出してくれると思っていたんだけど。・・・・もし万が一、この話が詐欺だったとしても、ギリギリ30万円なら自分の貯金があるから、それで補填する!」
「え、やるのね。もう、決めているのね、やる気なのね」
「うん」
「わかった。俺はあんたの経理で、(法人じゃないけど)社長はあんただから、出せと言われたら出すけど、本を出した花子さんみたいに札幌だ、沖縄だって飛び回って、これ以上、家の中がメチャメチャになるようだったら、俺は、あんたと離婚するから。離婚します。そのつもりで。」
「ありがとう。わかりました。」
経理と家計を握っている夫から、「出してくれる」という言葉さえ引き出せば、こっちはそれでいいのだ。やった、よかった。え?離婚?多分するわけないよ、夫はぷらたなすのことが大好きだし、それに生活力がないので、ここから出たら、暮らしていけないだろう。だからずーっと、私が家計の主だったんだ。
要は、いつも忙しそうにしていて家にもおらず、「ママが居なくて寂しくて悲しい」と思っている男の子が、さらにママが忙しくなりそうだという話を聞いて、あまりにも家を顧みないように思われて、無性に腹が立ってきたんだろう。そんなことはないのにね。